なぜ世界のホテルは「シグネチャーセント」を持つのか
ホテル独自の香り「シグネチャーセント」は、なぜ世界のホテルで取り入れられているのか。香りをブランド体験や記憶につなげる意味を考えます。

ホテルを訪れたとき「このホテル、いつもこの香りがする」と感じたことはないでしょうか。
海外を中心に、ホテル独自の香りをつくり、ロビーや館内で継続的に使用するホテルが増えています。
このような、そのブランドを象徴するためにつくられた香りを「シグネチャーセント」と呼びます。
単にホテルを良い香りにするだけなら、毎回違う香りを使っても大きな問題はありません。
それでもホテルがひとつの香りをつくり、長く使い続けるのはなぜなのでしょうか。
ホテルには「目に見えないブランド体験」がある
ホテルのブランドは、ロゴだけでつくられるものではありません。
建物に入ったときの照明。
家具やアートの選び方。
流れている音楽。
スタッフの接客や言葉遣い。
そうした一つひとつが重なって「このホテルらしさ」がつくられています。
香りもそのひとつです。
特にホテルは、商品そのものを持ち帰るビジネスではありません。
お客様が購入しているのは、部屋や食事だけではなく、そこで過ごす時間そのものです。
だからこそ、滞在中に触れるさまざまな要素を通じて、どんな体験を届けるかが重要になります。
シグネチャーセントは、その体験を構成する目には見えない要素のひとつです。
同じ香りを使い続けることに意味がある
一度良い香りをつくれば、それでシグネチャーセントになるわけではありません。
大切なのは同じブランドの中で、その香りを繰り返し体験してもらうことです。
ホテルを訪れるたびに同じ香りを感じる。
ロビーに入った瞬間、その香りと一緒に以前の滞在を思い出す。
そうした体験が積み重なることで、香りが少しずつ「そのホテルの香り」になっていきます。
これはロゴやブランドカラーにも似ています。
毎回ロゴの色やデザインが変わってしまえば、ブランドとして覚えてもらうことは難しくなります。
香りも同じで、継続して使うことで初めてその場所と結びついていきます。
特に複数のホテルや店舗を運営しているブランドでは、場所が変わっても共通した香りを使うことで、ブランドとして一貫した体験をつくることもできます。
旅先が変わっても、ホテルに入った瞬間に「いつもの場所に来た」と感じてもらう。
香りはそうした役割も担うことができます。
「ホテルのコンセプト」を香りに置き換える
シグネチャーセントをつくるときに、単純に人気の香りを選べばいいわけではありません。
例えば
都市型のホテルなのか
自然に囲まれたリゾートなのか
ビジネス利用が中心なのか
ゆっくり滞在することを目的としたホテルなのか
ホテルによって、届けたい体験は大きく異なります。
同じ「高級ホテル」でも、静けさを大切にするホテルと、華やかさを大切にするホテルでは、似合う香りは違います。
そのためシグネチャーセントを考えるときは、最初に香料を選ぶのではなく、
「このホテルをどんな場所として記憶してほしいのか」
から考える必要があります。
ホテルのコンセプトや客層、内装、立地、その土地の文化や自然。
そうした背景をひとつずつ整理しながら、ブランドの世界観を香りに置き換えていきます。
香りはホテルの外まで体験をつなげられる
シグネチャーセントには、もうひとつ面白い特徴があります。
ホテルで体験した香りを、滞在後にも届けることができることです。
館内で使っている香りを、ルームスプレーやキャンドル、ディフューザーなどの商品にする。
宿泊したお客様がそれを自宅へ持ち帰れば、ホテルを離れた後も同じ香りに触れることができます。
自宅でその香りを感じたときに、旅行や滞在中の記憶を思い出す。
香りを商品化する意味は、単に新しい商品を販売することだけではありません。
ホテルの中で生まれた体験をその後の生活までつなげることができる。
これは、香りならではのブランドの広げ方だと考えています。
「良い香り」ではなく「その場所の香り」へ
ホテルにとって、本当に価値のある香りは「多くの人が好きな香り」とは限りません。
そのホテルの空間やコンセプトと自然につながり、そこで過ごした時間と一緒に記憶されること。
そして、何度訪れても同じブランド体験を届けられること。
そこまで積み重なって初めて、香りは「その場所らしさ」の一部になっていきます。
Remniaでも香りを選ぶ際には、香りそのものの好みだけではなく、その施設がどのような場所でありたいのかを大切にしています。
香りをつくることではなくその場所の記憶をつくること。
シグネチャーセントを考える意味はそこにあると考えています。
